ときめきを今ここに

胸の高鳴りは君のせい

有岡くんと1日過ごしたら。

 

 

有岡くんの帰りを待つ私。彼はいつも先に寝てていいよ、とかゴロゴロしてていいからね、なんて言うけれど出来ないのだ。なぜだか先に寝ようともなかなか寝付けず、有岡くんが帰ってきたら来たで、すぐに寝てしまう。それは私が不眠症な訳ではなくて、有岡くんの帰りが待ち遠しくて、帰ってきたら安心して寝てしまうのだ。この話を聞けばわかる通り私は有岡くんの事が好…大好きだ。

 

 

そんなことを考えながらボーっとソファでテレビを見ていると、ドアの開く音がした。

「ただいま。」大好きな人の声がした。『お、おかえりっ』緊張して未だに声が裏返ってしまう。「何でそんな緊張してんの(笑)」と言いながら私の頭をポンっと叩くのはきっと緊張をほぐそうとしてくれている。だけどそのせいで緊張度は更に上がってる事に有岡くんは気付いているんだろうか。

 

私が緊張をするのには訳がある。有岡くんは私の3歳年上で少し前までは先輩と後輩の関係だった。それがまさか彼の家で彼の帰りを待つ事になるとは…5ヶ月前の私は思ってもいなかっただろう。

本当は『大貴』と呼んで欲しいらしく何度もお願いされたが、どうしても呼べなかった。その時に言われた「まぁ、結婚すれば名字同じになるしその時に呼んで貰えばいっか。」なんて微笑みかけてくる彼の顔と高鳴る胸の鼓動は今でも思い出すだけで照れてしまう。

 

 

今日は彼の帰りが遅いので夕飯は作っていない。もちろん事前に連絡をしてくれている。そのLINEの最後に「明日はお前の夕飯楽しみにしてっから。」なんて言葉を付けてくる所に彼のモテる意味がよくわかるだろう。

 

 

「お前いつまで経っても慣れねぇよな(笑)」なんてソファの私の横に座りながら言ってきた。『(しょうがないじゃん…年上だし、憧れだったし、毎日かっこよすぎだし…)』なんてことを考えながら黙りこんでいると、「何?俺がかっこよすぎるって?」なんて言いながら顔を覗き込んでくる。その顔のかっこよさと言ったら…いや、言うまでもない。

『ち、違「冗談、じょーだん(笑)まあ前まで先輩後輩だったしな(笑)距離あるのも無理ないか。」なんて少し悲しそうな表情で言ってくるから、本当の気持ちを伝えようと「あのね、大貴が!!いつも早く帰ってこないかな、って私待ってるし、なんかいつもかっこよくて、えっと、あの」なんて意味不明な言葉を口走ったせいで軽くパニック状態。おまけに有岡くんは口元緩みっぱなしのニヤケ状態。とりあえず落ち着く為にトイレに逃げ込…めるはずもなく、手を引っ張られ有岡くんの顔まで数10cmの距離に。「っで、何だって?」なんてニヤニヤしながら聞いてくるから、『ヤダ!離して!違う!何も言ってないもん!バカバカ!嫌い!』なんて恥ずかしさのあまり我を忘れて暴れる。「俺は好きだけどな~」「馬鹿は否定できない(笑)」なんて彼はいつも余裕そう。

 

いつだってそうだ。私に怒った事は一度もないし、「可愛い。」とか「その服似合うね。」なんてセリフは私が年下だから妹くらいに思って言ってるんだろう。今だって飲み物を取りに行くついでに頭をポンポンっとして「落ち着け落ち着け(笑)」なんて言ってる彼は完全に妹をあやすお兄ちゃん。なんなら大喧嘩してどっちかが家を出ていくくらいの事だってしたい。いや、そうなりたくはないけど、それくらい私を対等に見て欲しいのに。

 

いつだっけか「綺麗」って言われたくて、大人の女性に見られたくて、いつもより色気のある服やメイクにした事があったっけ。もちろん有岡くんがその変化に気付かない訳もなく、どうしたの?なんかあるの?なんて言ってきたけど『別に、友達と遊ぶだけ。』なんて試しに冷たく返したら、「そっか!いつもと違うから驚いちゃった。可愛いな~(笑)」と言われた。ドキッとしたでもなく、綺麗だな、でもなく私が望んでいた言葉を言われなかった事で私はもう妹としてしか見られてないんだなと思うと、なんだか自分が馬鹿馬鹿しく思えて無理をするのを辞めた。もう好きって言ってもらえればいいや。横に居てもらえればもういいや、なんて半ば諦めモードで。

 

 

飲み物を持ってきた有岡くんはまた私の横に座り、「ごめんごめん(笑)俺が距離がある、なんて言って顔に出したのが悪いんだよな、ありがと。俺は別にお前がいればいいから。」私の精一杯のフォローも彼にバレるし、しかも彼に謝らせる自分の不甲斐なさに悲しくなった。『それは私が年下だからそういう事言うの?私が同い年だったらそういうこと言わないの?』勢いで言ってしまった。「んな訳ないだろ?彼女だからに決まっ『もっと年上のお姉様みたいな人が良かった?それだったら私に甘えてくれたかな、弱音吐いてくれたかな、支えられたかな。』なんて更に困らせる事を言ってしまった。私はいつも有岡くんに助けてもらってきた。私が何か有岡くんにしようとも、彼の方が一枚上手で私より先回りしてやってくれる。それはもちろん嬉しいけど、同時に何も出来ない自分に気付く時でもある。

 

 

「あのなー?俺はお前の事が好きだからお前に色々してるの。もしお前が年上でも同い年でも、俺はお前に尽くすから。俺だってお前にかっこいいって思われたくていっぱいいっぱいなの。もう、すぐそういうこと考えるんだから~よっぽどお前の方が考えて行動してて大人だわ(笑)」照れながら言う有岡くんがいつも見ない顔の彼を見れたことに嬉しくなって、『…だいきっ』なんて言って抱きついてみた。「おまっ、それわかってやってるだろ!」…もちろん分かってる。私も案外大人だったかも、なんて思いながら抱きしめていた手の力を強めて。「お前がそんなことしてくるなら…」なんて言って、いきなり引っ張られてベッドに。何をされるのかと、急に緊張して固まる私に、跨って擽る有岡くん。確かに、今日はそんな雰囲気じゃないな、なんて思いながら私も負けず劣らず有岡くんを擽る。布団の中で暴れるふたりの動きを止めたのは、私の目を手で覆ってキスをする彼の唇。やっぱり一枚上手。でもそれが悪くないって思えた日。

 

 

 

「疲れた~なんでこんな夜にこんなことしなきゃいけないんだよ!」

『先にしてきたの有岡くんだから(笑)もう寝る!』

 

 

「おやすみ。」

『おやすみ、大貴。』